RSF 放射線安全フォーラム 本文へジャンプ
理事長コラム


原子力安全庁
加藤和明
2011年09月03日

 昨9月2日野田新内閣が発足し、前菅内閣で原発事故担当相(正式名は「原発事故の終息及び再発防止担当大臣」)を務めた細野豪志衆議院銀議員が引き続きこの職(朝日新聞は「原発大臣」と表記)に就くとともに環境大臣を兼ねることとなった。前内閣が8月15日に閣議決定した、環境省外局としての原子力安全庁の新設は、予定通り進めるという新首相の意思が示されたものと受け止める。

 細野大臣は、8月7日の朝、フジテレビの番組「新2001」で、原子力安全庁設置の目的は「原子力安全の確保」と「危機管理」の2点であると明言している。一方、8月16日の産経新聞によると、(8月12日の)素案段階で明記されていた「核燃料物質の運搬に関する規制」や「放射線障害防止」などの役割を(原子力安全庁が)担うかどうかについては議論が先送りされた、とのことである。

 原子力安全庁を環境省の外局として設置することについては疑問を呈する意見も少なくない。枝野前官房長官は8月15日の記者会見で異を唱えていたし、産経新聞は8月13日の社説で、東京新聞は8月16日の記名解説(三浦耕喜)で、疑問を呈している。しかしこれらは、細野大臣が述べている設置目的に標準を置いてのものである。筆者は、内閣府に付けるという枝野案に賛成すものであるが、それは上記マスコミとは異なる視点からのものである。

 現行の制度設計においては、原子力安全は放射線防護を含むこととしているが、集合論的には「放射線防護」∈「原子力安全」であっても、「原子力安全」∈「放射線防護」ではない。筆者は、“放射線防護に係る国の制度”を“原子力の傘”(=原子力基本法)の下に押し込む形で設計した現行の方策は、この際、根本的に見直すことが望ましい、と考える。

 放射線の使用そのものではなく、特定の放射線源の使用を規制することを基本に組み立てられている、現行の“放射線防護に係る国の制度設計”は、それがつくられた50年前とは、前提条件、すなわち世の中の在り様が大きく変化しており、経年変化による性能の劣化が夥しい。

 「生成放射線が機器の構成材や建築構造物に放射化をもたらす大型で高エネルギーの放射線発生装置の“使用規制”を“放射性同位元素等”の“等”に含めて処理する」現行の仕組み、放射性同位体を「放射性同位元素」と「核燃料物質」に区分する方策、とか、線源として同じものでありながら“放射線防護の仕組みや運用”が医療と医療以外の目的で使用する場合とで大きく異なっていることに社会の関心が高まっていること、などへの対応は、これまでのような小手先の対症療法ではもはや対応困難である。何よりも、3.11以後の喫緊の課題は、これまでの“放射線防護に係る国の制度”で管理の対象に含めてこなかった“人為的要因による環境放射線・放射能レベルの大幅上昇”への対応策を考えることであり、国策としての“放射線防護システム”を再構築することである。

 原子力をどのように定義するかにもよるが、仮に“原子力”を止めたとしても、国民は放射線との付き合いを止めることが出来ない。日本国民の長寿命は発展した医学の恩恵によるところ大であるが、その医療は放射線や放射能の利用なしには成り立つものではないし、自然界にはもともと天然の放射性物資が在り、これらが発する放射線や、宇宙から飛来する放射線(宇宙線)も存在する。天変・地変によるものに加え、実際上不可抗力と考えられる人的要因、すなわち、国の内外で生じる事故・災害や戦争による放射線・放射能環境の変化にも備えが必要であることも、今度の大震災が教えてくれた。

 50年前には米ソの核実験、25年前にはチェルノブイリの原発事故、12年前にはJCO臨界事故、というように、人的要因による環境放射線・放射能レベルへの影響はなかった訳ではないが、実際のレベルの変動幅が小さかったこともあり、“放射線防護に係る国の制度”が管理の対象外としてきた“環境放射線”に含めることで凌いできたと言える。

 3.11の大地震に福島原発が被災し、環境の放射線・放射能レベルが特定放射線源取扱施設内の放射線管理区域等の管理基準を超える地域・空間が、時間的にも空間的にも極めて限定的とはいえない状態で出現し、またこれによる世間の放射線防護についての関心の高まりもあって、医療行為に付随する被曝管理の在り方に対する関心もこれまでに見られないほどの高まりを見せている。

 名古屋大学の鈴木康弘教授(元原子力安全委員会専門委員)は、9月1日の朝日新聞に、「安全確認の責任一元化を」とのタイトルで、原子力安全庁の在り方についての論説を書いておられるが、「原子力安全」でいう“安全”と「放射線防護」でいう“安全”は、言葉は同じでも、意味するところは異なっていることを指摘しておきたい。

 2012年4月の原子力安全庁の発足を前に、放射線防護に係る国の基本設計を根本的に見直すことを国に求めたい。

2011年09月03日



前回のコラム 次回のコラム



コラム一覧