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放射線管理区域の外で発生した放射性廃棄物の取り扱い
加藤和明
2011年04月22日 |
放射線防護に係る国の現行制度設計は、特定の放射線源の使用を規制することをベースとしており、規制対象の特定線源指定に当っては、“除外”“免除”“解除”に関わるそれぞれの基準が設けられている。“除外”は、自然界に元々在るもので規制の対象に馴染まないもの、“免除”は量的にみて規制を掛けるに値しないと考えられるもの、“解除”は規制対象とされていたものが放射能の自然減弱等により“規制の趣旨”に相応しくなくなったことにより規制を除外することである。
管理区域内で発生する廃棄物は、長らく、それの持つ放射能濃度や総量の如何に関わらず「放射性廃棄物」のレッテルを貼り、永久的に保管することが義務付けられてきた。放射線施設の規模や数が小さなときには、それなりに“合理性のある”国策であったとも思われるが、放射線施設の規模や数が大きくなり、原子炉の廃止や大型施設の終業等が始まるにつれ大量の放射性廃棄物が生成されるようになって、一定レベル以下のものは“放射性廃棄物でない廃棄物”として取り扱うことが決められた。本来、論理的には、「解除レベル」は「免除レベル」と同値であって然るべきであるが、国の制度設計では「解除レベル」が「免除レベル」を大きく(?)下回るところに設定されており「クリアランス・レベル」と呼ぶことにしている。クリアランス・レベルの設定は、原子炉規制法が放射線障害防止法に先行して「300年後の住民に与えるインパクトとして年10μSvの実効線量を超えないこと」を目標に設定された。放射線障害防止法に係る放射性廃棄物のクリアランスの在り方が議論される中で、放射線審議会は年300μSvに代えることを主張したが、原子力安全委員会は、年10μSvの限度を変えるべきでないと反論し、それが認められ“年10μSvの実効線量”が維持された形で推移している。
さて、そのような状況の中で今回F1原発の災害が発生し、施設の管理区域外や敷地の外に“放射性の廃棄物”であるガレキが大量につくりだされ、現行法令にとっては“想定外”という前例のない事態に直面して関係者(廃棄物取扱業界や所管省庁の担当官)が頭を抱えていると聞く。
そもそも、わが国の放射線防護にかかる国の制度設計は、ICRP(国際放射線防護委員会)の創出・勧告したシステムに準拠して、1950年代末に整備されたものである。当時の考えでは、戦争や事故・災害による放射線被曝は、自然界に在る放射線への被曝同様、管理の対象外とされていた。
今回、放射線施設や放射線管理区域の内外を問わず、多量の“放射性ガレキ”が出現したからには、これを取り扱う“法令”を新たにつくるか、現行法令で使用している“概念の規定”を変更して、法令の適用領域を拡大するしかないのは自明である。
放射線の人体に及ぼす作用やその結果現れるかも知れない影響というのは、放射線やその源の出自に依らないことであるし、今回のような災害や戦争などが起きたときには、特定の放射線源の使用に起因する放射線や放射線被曝を分離抽出することが困難になるだけでなく、そもそもの制度設計に係る“合目的性”を見出せなくなってしまうので、放射線の影響を観察・監視・管理する目的に使用する線量の概念規定や測定・評価に当たっては、自然起因、災害起因、その他のバックグラウンド放射線の寄与を全て含むように変更し、“放射線被曝に伴うリスク管理”は、それぞれの要因別に、管理の手法を構築する、というのが望ましいのではなかろうかと愚考する。放射線あるいは被曝の起因別に線量を測定し評価するというのは、そもそも技術的に困難な場合がありうること、技術的には可能であっても、大層な手間暇を掛けて分離評価することに、それに見合う“便益”があるとは思われないこと、も多いと考える。
少なくとも、指定された放射線源の使用に係る廃棄物の“クリアランス・レベル”や使用を取止める線源についての“解除レベル”設定の在り方については根本的に検討し直す必要があるであろう。
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