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理事長コラム


緊急時の被曝管理基準
加藤和明
2011年04月17日

 東日本大震災が起きた日の前日、国が定めた“緊急時の放射線管理基準値”は、実効線量にして100mSvとされていた筈である[現業の仕事を離れて久しいので、放射線防護に関わる現在の国の制度設計(関係法令とそれに基づく行政指導)に通暁しているとは言い難く、後の記述を含め、筆者の独断と偏見が在り得ることを、予めお断りし、お気付きの方がおられましたら、御教示賜りたくお願いする次第である]。

 東京電力の福島第一原子力発電所(F1)が“非常事態”となり、自衛隊からも“事態収拾”のため応援チームが派遣され、高レベルの放射線環境の下任務に当られたことは記憶に新しいところである。後日テレビで会見したチームのリーダーのお話によると、「被曝線量の管理は基準値100mSvを超えることがないように管理の目標値を60mSvと定めた。結果としての被曝線量の実績は30mSv台に収めることができた」とのことである。

 実は、放射線審議会でICRPの1990年勧告の国内法への取り込みを議論していた時だったと思う(放射線審議会が首相直轄の諮問委員会であった時期、1958年から2期8年、委員を拝命し、そのあと数年基本部会の専門委員も続けていた)が、緊急時の管理基準のことも取り上げられた。私は「放射線業務者に対する年限度が50mSvと定められていることから、緊急時の管理基準としては低すぎて実際上意味を持たない」という理由で反対したが、少数意見として、いつものごとく「意見は聞き置くが」ということで取り入れてはもらえなかったということがあったので、やはり思った通りの使われ方になったと思った次第である。

 3月21日の朝日新聞朝刊が、東京消防庁の派遣隊が19日夜から開始したF1=3号機への放水作業の指揮を執った総隊長(佐藤康雄氏58歳)の会見を報じていて、20日午前5時までに100mSvを超えたものは作業員33人の内7人であることを知った。同記事に「厚生労働省が“今回の事故対応に限って”上限を250mSvに緩めている」ことも書かれていたので、以前(確か3月15日頃)「福島県が緊急時の管理基準を2.5倍に引き上げることを決め、厚生労働省が承認した」というようなことを耳にしたので、国制度設計としては、所管が首相から文科大臣に変わったとはいえは、この種のことは放射線審議会の所掌であろうから、その辺はどう処置されたのかと気になっていたのであった。

 4月8日に2月まで放射線審議会の会長を務めていた中村尚司先生にお会いしたので「緊急時の管理基準はどうなっているのでしょうか」と尋ねたところ、「もう引き上げられている筈」とこともなげに答えられたので、翌日、文科省のホームページを探したが、新しい会長のお名前も、新基準値に係る記載も全くなかった。
 今週の初め(4月17日朝)、念のため再度、文科省のHPを覗いてみたところ、電子メールによる持ち回り方式で放射線審議会が開かれ、3月14日付で会長に丹羽太貫・京都大学名誉教授を互選で選出し、3月16日付で厚生労働大臣の緊急時管理基準の引き上げに係る諮問を了承したことを知った。なお同HPには、「電子メールで意見交換を始めた日付を3月14日とし、その日を以て答申を行ったことにする」旨の会長発言も記載されている。

 今回の東日本大震災は、国の制度設計が縦割りでつくられているがため、横の連携が取りにくく、そのため国ないしは国民が本来持ち合わせている能力を存分に発揮できないことをまざまざと見せつけてくれたが、こと放射線防護に関しては、縦のラインも、緊急時には正常に機能しないものであることを示してくれたのであった。



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