RSF 放射線安全フォーラム 本文へジャンプ
理事長コラム


青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設を訪問して
加藤和明
2011年02月07日

 当フォーラムの6名の仲間と(財)日本原子力文化振興財団の「核燃料サイクル関連施設視察」(2010年度第8回)に参画させて戴いた。資源エネルギー庁の委託を受けて行われている事業で、人数の制約は厳しかったものの、我々のところにもお声を掛けて戴けたということは、当フォーラムに対する関係者の認知度もそれなりに上昇したことかと、勝手に解釈し、喜ばしく思っているところである。

 一行23名、早朝7時32分東京駅発で1泊2日という駈け足の視察であったが、“百聞は一見に如かず”で、腰痛と風邪を抱えながらの旅にしては収獲の多いものであった。

 3月上旬に、視察参加者による意見交換の会があるので、そこでまた新たな知見が得られるものと期待しているのだが、帰途に就く前、主催者側から求められたアンケート(の内容と質問の方法)の一部に思うところがあったので披露してみたい。

 設問の中に、「この視察によって“施設への理解”が深まったか否か」(Q4)、「“核燃料サイクルに係る安全性”についての認識に変化があったか否か」(Q5)、「“核燃料サイクルは必要と思うか”(Q6)」、を尋ねるものがあった。主催者としては事業の成果を見るために当然知りたいと思う項目である。

 既に述べたように、何事も“Seeing is believing!” であり、定性的にいえば視察によって“理解が進む”のは当たり前である。しかし、理解を深めたいと思ったり疑問を解きたいと密かに願っていることの内容は、人によって千差万別であり多種多様である。従ってそれにぴったりの資料の提示や質疑への応答が無ければ、視察後に覚える満足感には、大きな個人差が生じるであろうと思われる。

 Q5の質問に正直に答えるには、主催者(若しくは質問者)に“安全”というものをどのように捉えている(定義している)のかを提示して戴くか、“回答者が考える安全”とは何かを先ず書かせ、その上でそれが視察の前後でどのように変わったかを尋ねるべきであろう。安全について抱くイメージは余りにも漠然としている上に、個人差が大きいように思われるからである。

 「○○は□□である」といった記述命題の当否、正誤は須らく前提に依るので、Q5の問にしろQ6の問にしろ、前提が明確に示されない限り、あるいは前提を示して答えることが出来ない限り、回答不能と思われる。特にQ6の問については、前提に据える状況が時間の推移と共に大きく変化して行くので、どの時点でどういう前提に立てばと断らない限り、“必要である”とか“必要でない”と二者択一的に答えることは難しい。このように余りにも単純化した質問では、回答を集めたところで政策の立案や修正の参考にも大きなものは期待できないように思う。

 知見・技能・価値観などが多様化している人間の集まりを対象に、効果的にして効率的な“啓発活動”を行うことの難しさを実感した。このような視察団には、いわゆる“専門家”をも適当に混ぜ込んで、往復の移動時間や食事時などの“交遊”を通じて自然発生的に生じる“啓発への触媒作用”を重視することをお勧めしたい。




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