RSF 放射線安全フォーラム 本文へジャンプ
理事長コラム


リスクと実効線量
加藤和明
2010年10月20日

 リスクを平均余命に例えるなら実効線量は平均寿命に相当する。平均寿命とは「(無事に)生まれた直後における平均余命(あと何年生きられるかという期待値)」のことである。

 人が単位時間当たりに命を失う確率(死亡率mortality)の年齢依存は単純ではない。電気製品などの故障率をよく表現するワイブル曲線(縦軸に故障率、横軸に使用年数をとって描かれる)に似たものとなっている。今、仮に平均寿命を80年としたとして、同年齢の人が毎年同じ数 (1/160) だけ亡くなっていく訳ではなく、放射能の減衰のように一定の割合で亡くなっていく(そうだとすれば半減期は約56年ということになる)訳でもないことは誰しも経験的に知っていることである。

 注意すべきことは、X歳における平均余命が、平均寿命からそれまで生きてきた時間 (X) を差し引いたものとはならず、それより大きな値になるということである。

 このような関係はリスクと実効線量の間にも見られ、そのことを正しく知ることは放射線の影響ないしは安全管理を学ぶ上で重要である。この場合のリスクとは放射線の被曝を受けた直後において見積もられる“将来のいつの日にか確率論的影響stochastic effect が発症するかもしれない可能性”を意味しており、実効線量というのは、出来栄えの良し悪しは別として、このリスクについての表現体となっているのである。

 被曝後Yという時間が経過したときのリスクは、その間において発症のなかった人についてはリスクがゼロであったと確定するので、実効線量が表現しているリスクの値よりは小さなものに化していることになる。不幸にして発症してしまった人については、逆にリスクが1として確定したことになる。

 実効線量を“影響そのものの測度”と誤解している人が少なくないように見受けるが、正しくは“影響発現の可能性の測度”、換言すれば“被曝直後におけるリスクの測度”なのである。




前回のコラム 次回のコラム



コラム一覧