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理事長コラム


放射化物を“汚染物”と呼ぶのは如何なものか?
加藤和明
2010年05月06日

 今回の放射線障害防止法改正(4月27日参議院可決)では、従来から使用されてきた「放射性同位元素によって汚染された物」に加えて「放射線発生装置から発生した放射線によって汚染された物」の概念を導入し、併せて“放射性汚染物”と呼ぶことにしているようである。

 原子核の構成要素である核子の結合エネルギーを超えるエネルギーの放射線が原子核に入射すると、核子の結合状態が変化して“放射性”となることがある。100MeV 以上の高エネルギー放射線では、原子核の種類(核種)が何であれ、新核種を生成する可能性を持つ。また電荷をもたない中性子は運動エネルギーが極めて小さなものでも原子核に内部に容易に入り込むことができるので放射性の核種を容易につくることができる。このような放射性核種を含む物質を“放射性物質”、物質が放射性となることを“放射化”呼んでいる。 放射化は原子炉や(エネルギーがある程度以上に高い)加速器の施設では、意識的になされるもの、副次的になされるもの、の別はあるが、日常的に見られる現象である。

 文明の発展や維持に有用な放射線源としてこれらの“放射化物”も大いに役立ってきたことは周知のとおりである。今回の法改正では、これを“汚染物”と命名してしまったことになる。加速器施設でつくられる“放射化物”の取り扱いがこれまで放射線障害防止法において適切に扱われてこなかったことは大変に遺憾なことで、今回少なくともこれの是正が図られたということは評価に値するのであるが、“放射化物”なる表現を避け“放射性汚染物”として括ってしまったことには大いなる疑問を覚える。

 自然界には、量の多寡は別として、物質・物体を放射化させる力をもつ放射線も存在し、それによってつくられる“放射化物”も存在する。これらも“汚染物”と見做せというのであろうか?更に言えば、強力な放射線源でもある太陽も“汚染物”をつくりだす“悪しき存在”というのであろうか?

 生成にかかわる放射線の出自ごとに放射化物の扱いを異にする方策を放射線防護の実務に押しつけることにも大いなる疑問を覚える。その昔、放射線障害防止法で規制される加速器で生成された放射線が原子炉等規制法で規制される核燃料物質に当てられてつくり出された放射線の被曝量を、法令ごとに分離して報告せよと、“監督官庁の担当官”に要求されたことを思い出す。
(2010年05月10日一部修正)



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