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理事長コラム


情報理論の視点から見た放射線計量学
加藤和明
2010年04月01日

 放射線の安全管理に放射線の計量 ( Radiation Dosimetry) は不可欠である。「計量なくして管理なし」とは、放射線に限らず、安全管理に係るいずれの分野でも強調される、基本的な戒めの言葉である。

 今日、放射線防護に関係する分野では、“放射線への暴露(被曝)”を制御する目的で様々の“線量”が導入・使用されている。基本的線量は「物質のエネルギー吸収密度」として定義される“吸収線量”Dであるが、放射線の種類や性質の違いにより影響(そのものや影響発現の可能性)の大きさが異なることを補正するための修正係数である「放射線荷重係数」とか確率的影響に対する身体部位の感受性の違いを補正するための「組織荷重係数」といった“荷重係数”で重み付けをした“加重線量”、すなわち“等価線量”とか“実効線量”、さらには“1センチメートル線量当量”とか“70”ミクロンメートル線量当量”といった“実用線量”と呼ばれるものや、英語でkermaとかexposureと呼ばれる“線量擬き”dosimetric quantities が、“制御量”として広く用いられている。吸収線量とkermaにはgray(Gy)が、防護のための加重線量と実用線量にはsievert(Sv)が、exposureにはroentgen(R)が、単位としてそれぞれ用いられているので、単位でもって量の種類を指定することができないことに注意が要る。

 物理学的に言えば、放射線が多種多様の物質・物体に及ぼす多種多様の効果・影響の因果関係を追及する上で最も基本的な情報は、“放射線の場”についてのものである。具体的には、放射線粒子の種類と放射線粒子の種類ごとの、放射線粒子束密度Φと呼ばれる物理量の、放射線粒子エネルギーEについてのスペクトル(エネルギー密度分布関数)φ(E) = dΦ/dE (E) である。

 放射線が物質・物体に及ぼす影響を科学の対象とするためにはその因果関係を定量的に定める必要があり、上記の各種線量がその役を担うものとして導入されているのであるが、残念ながら、その定義に忠実に応答を示す測定器というものはこの世に存在しない。

 いずれの線量(及び線量モドキ)についてもいえることだが、放射線場についての知識が完全に与えられていれば、すなわち、放射線粒子の種類と粒子束密度の絶対的なエネルギースペクトル、φ(E) =Φ・u(E),u(E) = dΦ/dE (E) / Φ が与えられていれば、新たに放射線の場に働きかけをして“情報”を汲み出すことなく線量の評価はできるのであり、逆に放射線の場についての情報が皆無であるならば、仮に場への働きかけによって一つの手応えを得たとしても、それによって得られた評価値の品質(精度と確度)はゼロであることに注意しなければならない。



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