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理事長コラム


ICRPと放射線審議会
加藤和明
2012年03月07日

 厚生労働省が食品の含有放射能についての管理基準値を定め4月1日から施行するところとなった。現行の国の制度設計においては、その当否を放射線審議会に諮問することとされて居り、放射線審議会は2月16日に審議を行い了承したということである。

 昨日知人に教えて戴いたところによると、2月16日に開かれた第126回放射線審議会終了後、丹羽会長がNHKのインタビューに応えた中で「地元の農産物の生産者にもっと配慮する必要がある」というような意見を述べていたということである。

 私は、このようなPolitical Judgment を放射線審議会なりその会長なりが表明することは良くないし、すべきでないと思う。私も、丹羽さんのその意見には全く同感であるが、そのこととモノの道理とは別のことである。

 放射線審議会は、純粋に学術的見地から諮問されたことに対して見解を示すべきであって、財政上の配慮とか政治的配慮といったことは考慮に入れるべきではないと考える。

 恐らく、丹羽会長は、放射線審議会は政府から諮問されたことに対してだけ意見を言えと言われ(実際、私が委員を務めていた時そう聞かされたし、原子力安全委員会についてもそうであると現在の委員長が先日テレビで語っていた)、今回の食品の放射線安全についての諮問も形式だけのものとなってしまっていることに憤りを感じておられるものと拝察するが、若しそれが本当だとしたら、問題にすべきはこちらの方であり、政府は早急に放射線安全についての国の方策を決定する仕組みとその在り方について改善を行うべきである。  

 一方で、NHKの総合テレビが昨年の暮れ(12月28日)に『低線量被曝:揺らぐ国際標準』のタイトルで放送した「追跡!真相ファイル」番組に“原子力ムラ”のOB112人が噛みついた(サンデー毎日2012.2.19)というのでマスメディアやインターネットを賑わしている。歴代の政府や学会の指導者にICRPを高く評価し、その権威に縋ってことを進めてきた方が多いので、これも今話題の“東大話法”による“意思表明”が多く、ICRPに批判めいた報道や意見表明を行うと、寄って集って苛められる、という風潮になっている。

 “原発”にしろ“原子力ムラ”にしろ、問題があるとすれば“存在の在り様”であって“存在”そのものが問題なのではない。ICRPのCはコミッションのCでありコミッティのCではない。そして、そのCの役目は“政策の提言”であり、サイエンスとしての結果を出すことではないのである。ICRPはコミッションの下に(現在は5つの)コミッティを置いていて、政策決定に資するため、関係する科学の材料を収集し品質を評価して整理しその結果を報告書にまとめているので、そのoutcomeについてscienceの立場で批判することは当然在って然るべきであるが、コミッションの発する政策の提言については、外部の者が文句を言うべきことではない。我々(や政府)がそれをどのように受け止めるかが問題なのである。ICRPを神のごとく扱う者がいるとすればそれがおかしいのであって、NPOの一つであるICRPに対しては本来“是々非々”で臨むべきものなのである。

 放射線審議会の在り方とICRPへの接し方についての、多くの国民の受け止め方は共に逆向きであり、問題であると憂慮するものである。
2012年03月07日
修正:2012年02月27日



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