RSF 放射線安全フォーラム 本文へジャンプ
理事長コラム


Validation
加藤和明
2010年08月09日

 つくば市にEBIS(イービス)という名前の会社があり、様々の物品に、最大30mAの5MeV電子線を照射するサービスを行っている。住友重機(株)系列の会社で正式名は「日本電子照射サービス株式会社」である。数日前、某誌の取材訪問に付き添って見学させて戴く機会を得た。

 ダイナミトロンと呼ばれる走査型電子加速器を使っていて、最大約10kGy/sという高線量率で、数MGyまでの照射が可能とのことである。もちろん、放射線障害防止法の規制対象となる放射線発生装置であるが、加速電圧が6MV未満ということで“放射化対策”は不要とされている。

 照射の対象・目的は、@.医療機器、医薬品、等の“殺菌・滅菌”と、A.高分子材料や半導体の“改質”が主であるが、B.滅菌バリデーション関連試験としての“微生物試験サービス”や、C.“製品企画試験サービス”、D.“材質・分析試験サービス”、のためのものもあり、需要が増えているという。

 顧客の中には、ガンマ線照射からの切り替え組も結構あったようであるが、その理由として、時間線量が、5,000〜10,000倍高いということ以外に、電子や電子線がイメージとして“放射線”と直結しないこともあるようだとお聞きしてナルホドと唸ってしまった。会社名には“電子線照射”ではなく単に“電子照射”と謳っている。これで、世間は“電子レンジ”の親戚位に受け取って呉れるのだという。

 しかし、それ以上に大きなインパクトを受けたのは、薬事・医療の世界では、バリデーションが重要な要件になっているという事実であった。Validation とは「許認可の要件とされている事柄が性能として実際に満たされていることを立証すること」というのが筆者の理解である。

 当フォーラムが昨年8月に蓼科で開いたサマーセミナーで、講師にお招きした東芝の飯田式彦氏が「国産の原子力技術を海外に売り込もうとするとき、国内で慣れ親しんでいる方法に頼っていては全く駄目である。つまり、日本の国内における“制度設計”は、いわゆる globalizationに乗り遅れていて、外国では通用しないのである」と言われたことを思い出し、また、放射線障害防止法が施行された1958年から相当の時間が経過しているにも拘らず、放射線施設への“法定”立ち入り検査が、実に“形式重視”のものであったこと(例えば、放射性汚染の可能性のある管理区域の出入り口付近には放射性汚染の検査機器を置くことが許可要件であったとして、検査官は「ハンド・フット・クロス・モニター」の銘板などが打ちつけられてある機械が置かれていることを確認するだけで、(判定の技術も基準も定められておらなかったのであるから、実際問題としては、できないことではあったが)品質・性能の確認は特に行うこともなく“了”としていた)などを、思い出さずに居られなかった。

 遅れ馳せながら、放射線防護・放射線安全管理の世界でも、許認可を得た使用者の側がバリデーション(法律的有効性の検証)に責任を持つことを“常識的”としなければならないのではないか、と感じ入った次第である。

 筆者は、予てより、放射線安全管理に係る“定量”と“判定”の品質について最低限の要求を関係法令に織り込むべきだと主張を続けているが、実のあるバリデーションは、将にこれなくしては為し得ないことを付記しておく。
(同日一部修正)



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